この職場の不思議なところは、
ミスの内容より「誰がやったか」のほうが重要視されるところだ。
またある日のこと。
例の簡単な入力作業で、
ぶりっ子ママがやらかした。
数字を一桁間違えただけ。
内容的には、正直よくあるミスだ。
画面を見つめたまま、彼女は例によって深く息を吸う。
「はぁ〜……あれぇ? なんでぇ〜?」
首をかしげ、困った顔を全力で演出。
すると、音もなく背後に現れるイラ神。
「どした?」
「え〜、ここが分かんなくてぇ〜」
画面を一瞥したイラ神は、ため息どころか笑顔。
「ここな。こう直せば一発だよ」
「え〜! さすがぁ〜!」
その場はそれで終了。
ミスは修正され、ぶりっ子ママは感謝され、空気は和やか。
誰も「なんで確認しなかったの?」とは聞かない。
そして、ミスリーダーの場合
問題は、その数時間後だ。
ミスリーダーが、ほぼ同じ種類のミスをした。
数字が一桁ズレている。
原因も、確認不足。
内容は正直、さっきと大差ない。
ミスリーダーは画面を見て固まり、
小さく息を吐いた。
「……あ、すみません。ここ、確認します」
その瞬間。
空気が変わる。
イラ神が椅子を鳴らして立ち上がり、腕を組む。
「お前さ」
低い声。
「なんで同じミス繰り返すわけ?」
周囲が一斉に画面から目をそらす。
ミスリーダーが言い訳をしようと口を開く前に、追撃。
「確認ってさ、やる前にするもんじゃね?」
「社会出たことあんの?」
言葉は淡々としているのに、
刺さり方がエグい。
同じ設定。
同じ入力画面。
同じレベルのミス。
違うのは、ため息の可愛さだけ。
学習するのは、どっちか
この対応の差が生むものは、単純だ。
ぶりっ子ママは、また同じミスをする。
だって、困れば誰かが助けてくれるから。
ミスリーダーは、委縮する。
質問する前に怒られる未来が見えるから。
結果、覚えるのはどっちか。
答えは、誰でも分かる。
職場に蔓延する「対応格差」
この職場では、
優しさはスキルではなく、選別制だ。
ぶりっ子ママのため息は「助けてサイン」。
ミスリーダーのため息は「怠慢の証拠」。
同じ行動でも、
受け取られ方が違えば、結果は正反対になる。
こうして今日も、
頼れば許される人と、
黙って怒られる人が量産されていく。
これが、ぶりっ子ハラスメントの第二形態。
静かで、見えにくくて、
でも確実に人を削るやつ。

コメント